引用:Pixabay
いつも履いているスニーカーの靴底が、ある日突然はがれてしまったらどうしますか? できることなら、自分ですぐに修理したいですよね。ここで気になるのが、ゴムに接着剤を使えるのかという点です。靴底のようなゴム製品をくっつけるには、どのような接着剤を使えばよいのでしょうか?そこで今回は、ゴム製品に使える接着剤の選び方や、接着剤の失敗しない使い方について、詳しく見ていきましょう。
接着剤でゴムをくっつけるためには、ゴムと相性のいい接着剤を選ばなければなりません。というのも、接着剤がその効果を発揮するには、素材の表面に薄く広がる必要があります。しかし、素材との相性が悪いと、素材の表面が接着剤をはじいてしまいます。例えるなら、テフロン加工のフライパンが水をはじくような状態です。ゴムと相性のいい接着剤の条件は、ゴムの表面となじむことなのです。
また接着剤との相性は、ゴムの種類によっても様々に変わります。そもそもゴムには、実にたくさんの種類があります。大きな分類としては、輪ゴムに使われる「天然ゴム」と、化学的に合成された「合成ゴム」に分かれます。合成ゴムの中でも、靴底に使われているのは「ウレタンゴム」です。各種パーツのパッキンには「シリコンゴム」が使われることが多く、窓枠に使われるような黒いゴムは「クロロプレンゴム」と呼ばれます。
たとえば、天然ゴムには表面に接着を阻害する成分が付着しており、接着剤がうまく機能しません。また、合成ゴムの中でもシリコンゴムは表面に接着剤がなじみにくく、使える接着剤が非常に限られています。このように、相性のいい接着剤を選ぶには、ゴムの種類を見極めなければなりません。しかし、ゴムの種類を見た目から判別するのは至難の業です。相性のいい接着剤を選ぶためには、接着しようとしているゴム製品の成分表を見て、その種類を正しく判別する必要があります。
相性のいい接着剤を選ぶには、ゴムの種類を見極めるだけでは足りません。「どんな材質の物にゴムを接着したいのか」「接着後はどんな使い方をするのか」など、接着の目的や用途によっても接着剤を使い分ける必要があるからです。
たとえば、ゴム同士を接着させるのが得意な接着剤もあれば、ゴムを異なる素材と接着させるのに向いている接着剤もあります。また、ゴムと金属を接着するのに向く接着剤もあれば、ゴムと革を接着するのが得意な接着剤もあります。「ゴムと何を接着させるか」によって、選ぶべき接着剤が変わってきます。
「接着後にどんな使い方をするのか」という点も大切です。というのも、接着後の使い方に応じて、求められる接着後の硬さが変わってきます。たとえば柔らかい素材同士を接着する場合は、接着剤がカチカチに固まってしまうと使いにくくなります。そのため、接着後の使い方に合った硬さに固まる接着剤を選ばなければならないのです。
接着部に強い力がかかるような使い方を想定している場合は、接着後の耐久性も考慮する必要があります。瞬間接着剤の耐久性はあまり高くないので、接着強度を求める場合には瞬間系ではない接着剤を選ぶほうがよいでしょう。
わずかなすき間の中にゴムを接着するような場合は、接着後の体積変化が少ない接着剤を選ぶ必要があります。接着後に体積が収縮する性質の接着剤を使うと、収縮による圧力がゴムに加わり、劣化の原因になってしまうからです。
ゴムに使える接着剤の種類として、もっともオーソドックスなのは「合成ゴム系」です。合成ゴムを主成分とした有機溶剤が含まれており、溶剤が蒸発することで接着する「乾燥固化」の仕組みを利用しています。そのため、接着後は硬い状態になります。溶剤と同質の素材である合成ゴム全般と相性のいい接着剤です。合成ゴム同士を接着するのに向いています。
塩化ビニルを主成分とした溶剤を使った「塩化ビニル系」の接着剤も、合成ゴムの接着に向いています。こちらも溶剤の蒸発による「乾燥固化」を利用しているため、接着後は硬い状態になります。溶剤の主成分が塩化ビニルなので、合成ゴムと塩化ビニルを接着するのに向いています。なお、先ほど挙げた「合成ゴム系」の接着剤は塩化ビニルと相性が悪く、その点では「塩化ビニル系」の方が優れています。
接着剤に含まれる溶剤は、独特のニオイの元となります。そのため、ニオイの少ない接着剤を使いたいという場合は、溶剤を含まない接着剤を選びましょう。空気中の水分に反応して硬化する「化学反応型」の接着剤で、接着後は弾性のある状態になります。中でも使い勝手がいいのは「変性シリコン系」です。合成ゴムだけでなく、プラスチックや革など幅広い素材に使えるからです。もっとも合成ゴムを接着する場合は、安定性が若干かけてしまいます。
無溶剤系の接着剤で、合成ゴムと特に相性がいいのは「ウレタン系」です。シリコンゴムやフッ素ゴムのような難接着性の素材には向きませんが、それ以外の合成ゴムには幅広く使えます。ゴム同士だけでなく、異なる素材との接着にも使えます。化学反応型なので、接着後も弾性のある状態を保つことができます。なお、EPDMという種類の合成ゴムは、「エポキシ系」の無溶剤系接着剤で強く接着します。
難接着性のシリコンゴムを接着する場合には、シアノアクリレート系の瞬間接着剤を使える場合があります。ただ、瞬間接着剤は耐久性が高くないので、接着強度が求められるような場合には向いていません。また、接着後に硬い状態で固まることにも注意が必要です。
合成ゴム同士を接着したい場合には、まずは「ウレタン系」の無溶剤系接着剤を選択肢に入れましょう。難接着性の素材(シリコンゴム、フッ素ゴムなど)でない限り、ウレタンゴムやクロロプレンゴムなど、多くの合成ゴムを強く接着することができます。溶剤が入っていないので、嫌な臭いがすることもありません。EPDMを接着する場合には、「エポキシ系」の無溶剤系接着剤を使いましょう。
なお「ウレタン系」の無溶剤系接着剤は、接着後の弾力性に若干の硬さがあります。そのため、接着後の柔軟性を重視したい場合には、「合成ゴム系」の溶剤系接着剤のほうが向いています。「ウレタン系」よりも柔軟な状態で固まります。もっとも溶剤系接着剤を使う場合には、接着部分の収縮に注意しましょう。また溶剤のニオイ対策として、換気にも十分気を付けましょう。
難接着性のシリコンゴムを接着したい場合には、シリコンゴムにも使える瞬間接着剤を選びましょう。なお、瞬間接着剤は接着強度がそれほど強くないので、接着後に強い力がかかるような用途は避けましょう。また、瞬間接着剤はカチカチに固まるので、柔軟性が必要になるような用途にも向いていません。
合成ゴムを異種素材と接着したい場合には、まずは多用途タイプの「変性シリコン系」無溶剤接着剤を選択肢に入れましょう。金属・プラスチック・革など、様々な素材と接着させることができます。難接着性のシリコンゴムも、表面処理をしっかり行えば接着できる場合があります。
もっとも合成ゴムとの接着性については、「変性シリコン系」よりも「ウレタン系」の無溶剤接着剤に軍配が上がります。金属以外の素材と合成ゴムを接着させる場合には、「ウレタン系」を使うほうがより強い接着強度を期待できます。
合成ゴムと塩化ビニルを接着したい場合には、「塩化ビニル系」の溶剤系接着剤がベストです。溶剤のニオイや体積収縮など、溶剤系のデメリットに注意したうえで使いましょう。
ゴム素材の表面には、製造過程で付着した油分などが残っています。こうした残存物が接着剤をはじいてしまうと、接着剤の効果が最大限に発揮されません。そこで、接着剤を使う前の下処理として、ゴムの表面をきれいにすることが大切です。
具体的には、まず表面にサンドペーパーをかけてわずかな凹凸を作ることで、接着剤が均一に広がりやすいようにします。そのあとエタノールやラッカーうすめ液を使って、表面に残存した油分をふき取ります。
素材の表面に接着剤を塗布する際には、薄く均一に塗ることが大切です。強く接着させようとして接着剤をたくさん塗っても、かえって塗りムラができて剥がれやすくなってしまいます。ヘラだけで塗布しようとすると、どうしてもムラができやすくなります。できる限りハケを使って、接着剤をムラなく塗布しましょう。
接着した後は、十分に固まるまで動かさないようにすることが大切です。多くの接着剤が、接着後5~10分ほど放置しておく必要があります。特に主剤と硬化剤を混合して使う「エポキシ系」の接着剤は、混ぜてから40分しないと固まり始めません。
なお上に述べた放置時間は、硬化が始まるまでの時間です。硬化が完全に終わるまでは、さらに長い時間がかかります。瞬間接着剤についても、硬化が始まるまでの時間は非常に短いですが、硬化が終わるまではある程度の時間がかかります。固まり始めた後も、完全に硬化するまでは動かさないようにしましょう。
ウレタン系の無溶剤接着剤です。合成ゴムだけでなく、天然ゴムの接着も可能です(シリコンゴム・フッ素ゴムを接着することはできません)。ゴム同士だけでなく、プラスチックや革との接着にも使えます。ただし、金属との接着には向いていないので注意しましょう。接着後は弾力性のある状態で固まり、耐久性にも優れています。
主剤と硬化剤を混ぜて使う、エポキシ系の無溶剤接着剤です。難接着性のシリコンゴムやEPDMにも使えるのが特徴です(フッ素ゴムを接着することはできません)。接着後の硬化物に弾力性があるので、柔軟性が求められる用途に向いています。固まるまでの時間が長いので、接着後の固定には十分に注意してください。
合成ゴム系の溶剤系接着剤です。有機溶剤が含まれているので、使用中の換気には特に注意しましょう。合成ゴム同士の接着に向いています(シリコンゴム・フッ素ゴムを接着することはできません)。初期接着までの時間が短いので、接着後の固定をしやすいのが特徴です。
塩化ビニル系の溶剤系接着剤です。合成ゴムと塩化ビニルを接着させるのに向いています(シリコンゴム・フッ素ゴムを接着することはできません)。こちらもすぐに初期接着してくれるので、接着後の固定に手間がかかりません。
シアノアクリレート系の瞬間接着剤です。最大の特徴は、難接着性のシリコンゴムやフッ素ゴムも接着できる点です。ただし接着後は硬い状態で固まるので、革やビニールなど柔らかい素材と接着するのには向いていません。付属のプライマーを最初に塗布して、そのあと本剤を使います。
変性シリコン系の無溶剤接着剤です。非常に多くの素材に使える万能の接着剤で、耐久性にも優れています。天然ゴム・合成ゴムのいずれにも、一定の接着力を発揮してくれます。難接着性のシリコンゴムでも、表面処理をしっかり行うことである程度の接着力を期待できます(フッ素ゴムを接着することはできません)。ただ、UT110に比べるとゴムの接着力は弱く、あくまでも応急処置としての使い方がよいでしょう。ゴム専用には別途UT110を用意しておくのが無難です。
今回は、ゴム用接着剤について詳しく見てきました。溶剤系・無溶剤系・瞬間系など、接着剤には様々な種類があります。素材や用途にぴったりの接着剤を見つけることで、ゴム素材でもしっかりと接着することができます。今回ご紹介したことを参考にして、壊れたゴム製品も自分で修理してしまいましょう!