「絶縁工具」とは、電気工事の作業をする人にとっては、自分の身の安全を確保するためには欠かせない工具です。
絶縁工具は、主に電力や通信設備の施工などのほかにも、ソーラーパネルの施工や、EVカー(電気自動車)の整備作業など、さまざまな作業現場で用いられています。
ここでは、基礎知識として絶縁工具の定義・特徴、一般的な工具との違い、そして絶縁工具の種類・選び方・正しい使用方法などを紹介します。 絶縁工具をこれから購入する人、絶縁工具の選び方に迷っている人など、ぜひ参考にしてください。
絶縁工具はどのような特徴があるのでしょうか。絶縁工具の定義と特徴、一般的にDIYなどでもよく用いられる工具との違いなどを紹介しましょう。
「絶縁」とは、その名前の通り「縁や関係を断ち切ること」。つまり、絶縁工具とは「電流が伝わることを断ち切る、絶縁素材に覆われた工具」のことです。
通電したままで電気工事などの作業をする際に、作業者の身体への感電や、機器間のショートなどを防止して、安全性を確保するためには欠かせない道具です。
絶縁工具は、労働安全法衛生法・労働安全衛生規則により使用が義務付けられています。
通電したままで電気工事に関わることができるのは、使用電圧に応じた有資格者だけで、技師は絶縁テストに合格した専用の絶縁ツールを使用しなければなりません。
また、万が一、絶縁工具からの漏電や通電中の部分にうっかり手を触れるなどを避けるためにも、絶縁グローブなどの保護道具を使用して、より安全性を確保することが大切です。
絶縁工具は、作業者の身の安全を守らなければならないので、製品には「IEC規格(ISO規格)」という国際電気標準会議 (International Electrotechnical Commission)が制定する国際規格が設けられています。絶縁工具に関する唯一の世界規格「ICE60900」は、AC1000V・DC1500Vまでの電圧の活線もしくは活線に近い状況で使われる絶縁工具に与えられます。
製品は以下のテストが行われています。
上記の試験に合格したICE60900製品は、他社製品の絶縁工具や、通常の工具と組み合わせて使用することは原則禁止となっているので注意が必要です。
また、使用電圧に応じて、「低電圧資格」などの電気技師の資格が必要になります。
※IEC規格(ISO規格)のほか、EN60900規格もあり、欧州においてはEN規格のほうが優先されています。
さらに、「VDE認証」というものもあります。VDE (VERBAND DEUTSCHER ELECTROTECHNISCHER e. V.)はドイツ電気技術者協会の略称で、電気製品の安全性試験と承認を行う協会です。
また、VDE認証を得るには、絶縁性試験・燃焼試験・常温と低温の衝撃試験・付着試験・くぼみ試験・マーク耐久性試験が行われ、このすべてに合格しなければなりません。
認証を得た製品には、VDEのロゴが入った三角屋根の家の形をしたマークが付いています。
絶縁工具と一般的な工具は、まず見た目からして違います。
ドライバーやニッパーなどDIYで見慣れた工具でも、絶縁工具の場合は、赤・オレンジ・黄色など、目立つ鮮やかなカラーの皮膜に覆われているので、一目で分かるようになっています。
被膜部分はPP(ポリプロピレン)などの絶縁素材を用いていて、たとえばドライバーの場合は、グリップ部分からドライバーの先ギリギリまでカバーしています。ニッパーの場合は、刃先以外はグリップ部分が全部カバーされています。
絶縁工具とはいっても、特殊なものではなく、ドライバー・ペンチ・ニッパーなど、一般的な作業に使用されるものもあります。
絶縁ドライバーは、前項の「一般的な工具との違い」でもご説明したように、一般的なハンドドライバーに、鮮やかな色のPP(ポリプロピレン)などの絶縁素材を用いて皮膜を施したものです。「電工ドライバー」と呼ばれることもあります。
見た目の違いだけではなく、絶縁ドラーバーは、通常のドライバーと比べて短いのも特徴。電気工事は狭い場所で作業をすることが多いため、短いほうが作業しやすいためです。
通常のドライバーと同様に、プラスとマイナスのドライバーがあり、プラスの場合は、ボード部分のねじ止めをしたり締め直しをしたりする作業に使います。
また、マイナスの場合も、ねじ止めやねじ締めのほか、簡単な削り作業や電線を外すときにも用いるようです。
通常のドライバーは、シャンク(柄)の部分が貫通タイプと非貫通タイプの両方がありますが、絶縁ドライバーは通電しにくい非貫通型がメインです。
絶縁ペンチも、絶縁ドラーバーと同様、先端の「切る」部分は金属部分が剥き出しですが、グリップ部分は、鮮やかな色のPP(ポリプロピレン)などの絶縁素材に覆われているのが特徴です。
通常のペンチと同様、先が尖って細いラジオペンチ、精密な電子部分をつかんだり切断したりするときに最適な先端がカーブした先曲ラジオペンチ、がっちりと対象物を掴んで切断する太めのペンチなどがあります。
また、ファストン端子・裸圧着端子の圧着、被覆線のストリップ作業、電線の切断など1本でできる万能タイプの圧着ペンチなど、いろいろな種類があるので、作業箇所に合わせて使い分けをします。
絶縁ドライバーは、主に電力や通信設備の施工のほかに、ソーラーパネルの施工、電気自動車の整備作業のような交流1,000V以下/直流1,500V以下の電力が加わる部品に使用されます。
銅線や鉄線などの線材をカットする工具の中でも、ニッパーは電線や金属線を切断したりプラスチックのケーブル被覆やタイラップ(ケーブルを束ねるための結束バンド)の切断をしたりする「カット専門」の工具で、ペンチなどに比べて切り口が平らなのが特徴です。
刃の部分が薄く仕上げられた薄刃ニッパー・斜めの形状に仕上げられた斜めニッパー・鉄線やピアノ線などより強靭な線材の切断用の強力ニッパーがあります。
ほかの工具同様、グリップ部分は鮮やかな色のPP(ポリプロピレン)などの絶縁素材に覆われているのが特徴です。
ドライバー・ペンチ・ニッパーのほかにも絶縁工具はいろいろあります。
また、使用頻度や関連性が高いものを複数本まとめたセットで売っていることも多くあります。ペンチ・ロングラジオペンチ・ニッパーだけの3点セット、サイズの異なるプラスとマイナスのドライバーだけが複数本入っているセット、ワイヤーストリッパーやニッパーなどカットする工具だけが入っているセットなど、使用頻度が高いものや、関連して使用することが多いものをまとめたセットです。
さらに、ケース付きの電気技師用ツールセットも販売しています。ドライバー・ニッパーなど基本的なものを含む数10種類の絶縁工具がセットになったもので、持ち歩きできるケースが付いています。
工具の種類ごとにポケットやスリットに収める場所が決まっていて、工具同士がぶつかり合わないように配慮されているのが特徴です。
絶縁工具はさまざまな種類があるので、用途に合った製品を選ぶことが大切です。製品選びのときのポイントを紹介しましょう。
絶縁工具は、「絶縁工具の定義と特徴」でご紹介した、絶縁工具に関する唯一の世界規格「ICE60900」、欧州規格の「EN60900」、ドイツ電気技術者協会のVDE認証を得た製品を選ぶ必要があります。
製品・取扱説明書・メーカーホームページ・カタログなどで、規格や認定を得ている製品かどうかを確認してから購入してください。
絶縁工具は、一定以上を超える電圧が流れると「絶縁破壊」を起こし、電気が流れてしまいます。そのため、絶縁工具だから何にでも適応するとは限らないのです。
規格や認定された製品でも、対応電圧には上限があるため、製品・取扱説明書・メーカーホームページ・カタログの使用欄に記載の耐電圧が、実際に作業をする機器の電圧を上回っているかどうか確認が必要です。
基本的に、世界規格 IEC60900やVDE規格など、厳しい条件をクリアした絶縁工具は、耐久性もあり品質も高い製品です。
また、メーカーによっては、自社の試験設備において耐久性や品質に関しての独自の社内試験を行なっているところもあります。各メーカーのホームページなどで確認してください。
絶縁工具は、電気工事などの作業者の身体への感電や、機器間のショートなどを防止して安全性を確保するための工具ではありますが、正しい使用方法を守る必要があります。使用中に配慮しなければならない注意事項や、正しい保管方法、メンテナンスの方法などをご紹介しましょう。
絶縁工具の種類によって、それぞれ注意しなければならないことは異なりますが、基本的に以下のことには気を付けてください。
「工具は丈夫だから」と適当に保管をするのはNGです。絶縁工具は使用後に油や水分などが付着していないか確認して、柔らかい布で丁寧に拭いてください。
また、高温多湿の場所・直射日光が当たる場所・チリやホコリが少ない場所・化学薬品や溶剤などがそばにない場所に保管してください。
絶縁工具は向きだしの状態で作業場の棚などに放置するのはNGです。専用の工具箱に、工具同士がぶつかり合わないようにして保管してください。
さらに、絶縁工具には寿命があります。
絶縁工具を保管する場所や工具ボックスなどに、それぞれの工具を購入した日を書いたメモを貼っておいてください。
基本的に、どんな絶縁工具でも、使用可能期間は「購入日以降3年間」だと考えるのが良いです。
3年間を超えた場合は使用をやめましょう。見た目に目立つ傷などがなくても、絶縁皮膜部分の素材が経年劣化して、絶縁能力が衰えている可能性があります。感電するリスクもあるので、新しい製品と交換してください。
メモを貼っておくと、うっかり3年を過ぎてしまっていたという状態を避けられるのでおすすめです。
絶縁工具を安全に使用し続けるためにも、使用後はお手入れをしましょう。柔らかいウェスやタオルなどで使用後の工具を丁寧に拭いてください。
また、絶縁皮膜部分に傷や損傷などがないか拭きながらよく確認しましょう。
絶縁工具は、使用する際には十分に安全対策に配慮することが大切です。
絶縁工具で作業する前には、作業環境の整備をしてください。足元などにいろいろ余計なモノが転がったりしていると、踏んで転倒したり手元が狂ったりする危険性があります。
また、床が濡れていたりホコリが積もっていたりしても危ないので、作業前には掃除をしましょう。
絶縁工具を使用する際には、安全のために保護具と一緒に使用してください。保護具は作業者自身が装着します。
「安衛則第346条(低圧活線作業)」では、感電の危険性を考慮して、絶縁工具を使用する場合は一緒に保護用の道具を用いることを規定しているのです。着用義務があるのは、頭を守る帽子や腕・肩を守る服・手足を守る手袋や長靴などです。
保護帽は、頭部を充電部との接触・機械的衝撃から保護する役目があります。全体にどんな穴も開いていないのが特徴です。
保護帽を被る前には、帽子自体に亀裂や穴がないか、またヘッドバンドが裂けそうではないか確認してください。
被るときは、真っ直ぐ被ってからあご紐をきちんと締めてください。保管するときには乱暴に投げたりせずに、絶縁工具同様にていねいに扱いましょう。
また、一般社団法人日本ヘルメット工業会では、電気作業用保護帽の素材によって3年以内、5年以内に交換を推奨しているために、内側に「使用開始年月日」を記入する欄が設けられています。新しい製品を購入したときは必ず記入し、使用有効期限を守るようにしましょう。
絶縁衣は、高・低圧配電線路の活線作業や活線近接作業などのとき、腕や肩からの電気の流入・流出など、感電事故の発生を防ぐために作業者が着用します。
作業着の上から両袖を通すショートボレロのような形をした肩当てタイプで、EVACという弾性があり耐衝撃性に優れた樹脂素材製です。
使用する前には、表裏にひび割れ・亀裂・切り傷などがないか十分に確認しましょう。持ち運びや保管時は、保護帽同様に工具や材料などと区別していねいに扱ってください。
電気絶縁用ゴム手袋は、低圧電気回路での活線作業などを行うとき、作業者を感電の危険から守るために使用する電気絶縁用ゴム手袋です。
使用する前は、部分的に引っぱり傷や裂け目などがないか確認します。特に指と指の間は慎重に見てください。
目視で確認したあとは、空気試験(袖口部分を手首の部分までくるくると巻き込んで折り返し、ふくらんだ部分を押して空気漏れがしていないかを確認する)をして、小さな穴が開いていないかチェックします。
絶縁用ゴム長靴は、活線作業などのときに電気用ゴム手袋などと併用して、足からの電気の流入、流出を防ぐために必要な保護アイテムです。
使用する前には、外側内側の傷やかかと部分の型崩れ、接着部分の剥がれなどのダメージがないか、ていねいに確認します。
電気絶縁用ゴム手袋と同様、小さな穴でも感電のリスクがあるために、空気試験を行なってください。
これらの保護具は、絶縁工具同様に安全性が重要です。使用後のメンテナンス・ダメージを受けないような保管場所・定期的な点検などは欠かさないことが大切になります。
ちなみに、労働安全衛生規則第351条では上記の保護具で「交流で300ボルトを超える低圧の充電電路に対して用いられるもの」に関しては、半年に一度の絶縁性の自主検査と、その記録を3年間保管しなければならないことが定められています。
絶縁工具は、作業者の感電を防ぐためにも必須です。
絶縁工具を選ぶときには、安全性の高さが保証されている認定済みの高品質な製品を選択しましょう。また、その安全をキープするためにも、使用期限・保管方法・メンテナンスにも十分に気を配る必要があります。
常に最大限の注意を払い、安全な作業をしてください。