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電子記録債権とは何 ? ファクタリングとどう違う ? 元銀行員が徹底解説 !

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電子記録債権あるいはファクタリングという言葉を金融の世界でよく見かけるようになりました。

インターネットの登場以来、旧態依然とした金融の世界にも様々な新しいサービスが現れてきてまさに日進月歩の世界になっています。電子記録債権もまたそのひとつです。

今回の記事ではその電子記録債権の仕組みについて 、また売掛金を使った金融サービス、ファクタリングとどう違うのかなどについて、元銀行員である筆者が徹底解説します。

 

電子記録債権とファクタリングは比べられるのか ?

そもそも電子記録債権とファクタリングは比べられるのでしょうか ?

電子記録債権とは通称でんさいと呼び、金融取引における手形債権や売掛債権などを、これまで紙ベース(手形、契約書等)で管理してきたものを排除し、電子データを使って記録した金銭債権のことをいいます。主に企業間の決済に使われる金融サービスです。

一方ファクタリングとは、企業の持つ売掛債権のうち売掛金をその支払期日を待たずファクタリング会社に売却し早めに資金を調達する方法のことをいいます。

するとこのふたつの仕組みを並べてみると、そもそも仕組みに違いがあり、またその目的も違うので直接比較することに無理があることが分かりますね。

しかし電子記録債権にはその金銭債権を使って企業が資金調達を図る「でんさいファクタリング」という方法があります。これだと一般的な買取りファクタタリングと比較できそうです。後で詳しく解説することにしましょう。しかしまずは電子記録債権とは何かということについてきちんと理解しておく必要があります。

電子記録債権(でんさい)とは ?

電子記録債権とは、従来企業間の決済手段として使われてきた手形や売掛金等の問題点をカバーして、新たな金銭債権として作られたものです。またその目的は事業者の資金調達をさらに円滑化させることにあります。※1

でんさいの特徴はすべての債権をネット上で電磁的に処理することで、その権利の発生、譲渡、分割等は電子記録債権として国が認めた「電子債権記録機関※2」の記録原簿に電子記録することで効力が発生します。

※1でんさいがうまく機能するため、2007年6月に電子記録債権法が成立し2008年12月に施行されました。

※2電子債権記録機関としては全国銀行協会が100%出資で設立した子会社の(株)全銀電子債権ネットワークがあります。この専業会社のネットワークには、全国の金融機関のうちおよそ600先に及ぶ銀行や信用金庫等が参加しており、電子記録債権の取引に関し安全性を担保する、いわば登記所的な役割を担っています。

でんさいの仕組み

でんさいの仕組みは従来からある銀行間での決済システムネットワークを利用したものです。

またでんさいの取引イメージは、以下の全銀電子債権ネットワークのサイトにおいてイラストで詳しく紹介されているのでご覧になって下さい。これまで紙ベースでやり取りしていた資金決済が電子決済に換わることでスピードアップすることがよく分かります。

参照先 : 全銀電子債権ネットワーク でんさいネットの取引イメージ
https://www.densai.net/feature

手形債権・売掛債権をでんさいに切り替えた場合のメリットとは ?

ここで従来の企業間取引の決済方法である手形債権・売掛債権をでんさいネットに切り替えた場合のメリットを箇条書きで比較してみましょう。

 

【これまでの手形・売掛金等のデメリット】

・手形…作成・交付・保管のコスト、紛失盗難リスク、金額の分割不可
・売掛金…譲渡債権の不存在や二重譲渡リスク
・売掛金…譲渡の事実を債務者(売掛先)に対抗するため債務者への通知・承諾が必要
・売掛金…人的抗弁※で対抗されるリスク

※人的抗弁とは、売掛金発生の原因である売買契約が債権回収前に無効であることを宣言されると、それを理由に支払いを拒否されること

【電子記録債権のメリット】

・電子データの送受信で売掛債権(手形債権・売掛金等)の発生、譲渡可
・電子記録機関の記録原簿にてすべての取引管理
・電子記録機関を通じて売掛債権の分割取引可
・記録原簿に登録することで、すべての債権の存在と帰属先が可視化可能
・債権の存在と帰属先が明確になり債務者への通知等が不要になる
・原則人的抗弁は切断され、売買契約無効を理由に売掛債権の支払いを拒否することはできない

 

このように電子記録債権はこれまでの手形債権、売掛債権の弱点をかなりの点でカバーしており、その普及が待たれるところです。

でんさいの普及度合いとは ?

それではでんさいは実際のところ、どの程度普及しているのでしょうか ? それをでんさいネットへ登録している企業数と売掛債権の利用金額でみると以下のようになります。

 

・登録事業者数 約45万社…ここ数年一定でほぼ伸びなし

・売掛債権請求金額 約1兆7,000億円

 

参照先:でんさいネット統計情報
https://www.densai.net/stat

 

一方日本の全産業でどれぐらいの売掛債権があるとかというと2018年9月末でおよそ222兆円あります。

参照先: 財務総合政策研究所 四半期別法人企業統計調査(受取手形・売掛金)
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/index.htm

 

もう少しでんさいは普及していると想像していましたが、驚くことにでんさいネットで売掛債権が決済されているのは全産業が保有している売掛債権のわずか0.7%に過ぎません。

しかもでんさいネットが開始してからすでに5年経過していますが、でんさいネットに登録している企業数は45万社とここ数年一定であり、ほぼピークに到達している状態です。これではとても普及しているといえませんよね。

一見して便利そうなでんさいですが、実際の数字を見ると全産業に普及するにはまだまだ色々な問題点があって時間が掛かりそうです。

現時点では決済で手形を多く利用している事業者なら決済方法をでんさいにすることでいくつかメリットがありますが、全産業での手形利用額がピーク時の10分の1まで落ち込んでいる現在、メリットを受けられる業者数はそれほどでもなさそうです。

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でんさいファクタリングとは ?

さて前章で見てきたように、まだまだ普及には時間が掛かるでんさいですが、そのでんさいの仕組みを使ったファクタリング、「でんさいファクタリング」があります。

でんさいファクタリングとは、自社の保有する電子債権(売掛金)をでんさいネットワークに加盟している銀行に売却して回収日前に資金を調達する方法のことです。ただし電子債権(売掛金)を買い取る相手は銀行でなく、銀行が出資している銀行の子会社(ファクタリング会社)となっています。

でんさいファクタリングでは売掛金を買い取るのが銀行子会社であるため、取引するのに安心感があり、かつでんさいを使った売掛金の信用度の高さから、一括買取りファクタリングに比べて買取り手数料が安いメリットあります。

ただし取引は売掛先を含めた3社間取引であり、必ず売掛先に譲渡の通知・承諾が必要となるため、債権保有企業はファクタリング利用を売掛先に秘密にすることができません。

一方、一括(買取り)ファクタリングでは2社間取引がメインであり、売掛先への譲渡の通知・承諾を必要としないので、売掛先に内緒で取引を進められるメリットがあります。

 

でんさいファクタリングと一括(買取り)ファクタリングの共通点と違い

それでは最後にでんさいファクタリングと一括(買取り)ファクタリングの共通点と違いについてまとめます。

共通点

・ファクタリングの仕組みとして、ファクタリング会社が債権保有企業(受取会社)の売掛債権を買取りして事業者の資金調達に貢献するという意味では目的は同じ

・受取会社…自社の売掛債権を売却・譲渡でき、売掛債権の回収期日前に資金が手に入る

・決済方法…回収期日に支払企業(売掛先)の銀行口座から資金が引き落とされて決済される

違い

・一括(買取り)ファクタリングは売掛金の売却・譲渡

・でんさいファクタリングは売掛債権(売掛金または手形債権、あるいはその両方)の売却・譲渡

・一括(買取り)ファクタリングはファクタリング会社が受取会社の売掛金を買取りして資金交付

・でんさいファクタリングは銀行子会社がでんさい利用企業の売掛債権を電磁的に買取りして資金交付

・一括(買取り)ファクタリングでは、受取会社が売掛金譲渡後、売掛先が支払い不能になっても利用企業に返済義務はない(ノンリコース)、ただしその分買取り手数料が高くなる

・でんさいファクタリングでは、売掛金譲渡後は所有権と共に管理責任はすべて銀行子会社に移るので、売掛先が支払い不能になっても利用企業に返済義務はない(ノンリコース)、ただし相手が銀行子会社かつ売掛金が電子債権のため買取り手数料は相対的に安い

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まとめ

これまで解説してきたように、でんさいを利用する上での問題点はまだまだ事業者間での普及度が極めて低いことです。

売掛債権の受取企業、支払い企業、双方の取引銀行がでんさいネットに加盟していればすぐに取引が開始できます。しかし普及度が現在のように低いままでは、仮に自社に新しく取引先が増えても、その取引先がでんさいを利用していない可能性もあり、決済でこのネットワークが使えるとは限りません。その点ではでんさいファクタリングは現状ではまだまだ利用価値が低いと筆者は考えています。

一方で一括(買取り)ファクタリングは、自社の売掛先が新しく増えるたび、ファクタリング会社と別の契約を締結する必要がありますが、そのデメリットを除けば、でんさいファクタリングに比べてまだまだ実用的です。

ファクタリング業界には現在も新しい業者がどんどん参入しており今後も発展の余地があります。そういう意味では、当面はでんさいファクタリングより一括(買取り)ファクタリングのほうが事業者にとって利用価値が高いシステムといえるでしょう。

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※記事の掲載内容は執筆当時のものです。