アメリカで生まれて、今や世界ナンバーワンの工具メーカーとなったスナップオン。世界中の工具メーカーが、スナップオンのデザインや機能に影響を受けて進化してきたといえます。
それではスナップオンは、なぜそれほど上質な工具を開発できるのでしょう?一体どのようなメーカーなのでしょう?
今回は世界中で愛用されるスナップオンについて、その会社と工具の特徴をご紹介していきます。
アメリカのメーカーとして有名なスナップオン。いつ頃つくられた会社なんでしょう?どのような経緯があったのでしょう?まずはその歴史をご紹介します。
スナップオンは1920年にアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーで設立されました。設立から100年と、工具メーカーの中では老舗にあたります。
創業者はエンジニアのジョセフ・ジョンソン。創業時に考案したソケットツールが大ヒットして、その工具メーカーとしての歴史をスタートさせます。1929年には全米に26の支店を持つほどになり、駆け出しの企業としては破竹の勢いで伸びていきました。
1930年代、世界中が金融恐慌などで大不況に陥りましたが、スナップオンでは「ユーザーが、将来購入したい工具のリストを作成する」という「ドリームオーダー」システムを生み出します。
また、数週間にわたる分割払い支払い方式「タイムペイメント」も導入し、ユーザーが支払い可能なときに支払い、大きな負担を感じずに工具を手に入れることができるようにしました。このシステムは「リボルティングアカウント」というシステムに進化し、現在でも行われています。
また同じ1930年代には、初の海外拠点をカナダに開設しました。その後も自動車産業や重工業の発展に合わせた工具づくりを続け、1940年代にはウォークスルータイプのバンによる販売を開始するなど、独自の販売手法を展開していきます。
1960年代には「フランクドライブ・レンチシステム」などの特許も取得、世界的な工具メーカーとして有名になりました。
1967年には日本市場にも参入し、1989年には日本法人スナップオン・ツールズ株式会社を設立。日本でも「工具メーカーといえばスナップオン」といわれるほど有名なメーカーのひとつになっています。
現在では世界中に12,600人の従業員がおり、130か国以上の顧客にサービスを提供するグローバルな工具メーカーです。
19010年代に「アメリカン・グラインダー・マニュアファクチャリング社」でエンジニアをしていたジョセフ・ジョンソン。彼は熱心に仕事に取り組む中である疑問を持ちます。「なぜ1サイズのソケットごとに、ひとつのハンドルを買わなくてはいけないのか?もっと少ない工具で作業を行えないのか?」
そしてある新しい工具のアイデアが浮かびます。そのアイデアを上司に訴えたものの聞き入れられません。唯一理解を示したのがウイリアム・シードマンでした。そこでジョセフはシードマンとともに独立して会社を立ち上げます。それがスナップオンです。
その時誕生したのが「インターチェンジャブル・ソケット」でした。5本のハンドルと10個のソケットの組み合わせで“Five do the work of Fifty,”(5本で50の仕事をする)というキャッチコピーがつけられます。このソケットツールは500セットを半年で完売するほどの大ヒットとなり、ここからスナップオンの歴史は始まりました。
スナップオンが1940年代に始めたウォークスルー・スタイルのバンセリングは、世界初の移動式販売方式です。デリバリーバンと呼ばれる大型のバンに工具を詰め込み、定期的にユーザーをまわって工具の販売と売上金の回収を行います。
現在、巡回するのはスナップオンの正社員ではなく、フランチャイズのオーナー。そのオーナーが巡回時にユーザーから、工具の使い勝手などを直接聞き取ることができ、その情報をスナップオンにフィードバックすることでさらによい商品を生み出しています。
この販売方法はアメリカ中に広がり、工具メーカーは同様のバンセリングを行うようになります。同じアメリカ生まれのマックツールも、やはり現在でも販売の基本はバンセリングです。
現在でも世界ナンバーワンと認められるスナップオンの工具。なぜユーザーから選ばれるのでしょう。そこにはどんな秘密があるのでしょう?ここではスナップオンの工具の特徴をご紹介します。
1960年代に開発した「フランクドライブ・レンチシステム」による技術革新があります。従来は点接触でネジやナットを回していましたが、それを面接触にしたシステムです。より大きなトルクをかけることが可能になったため、頭がなめかけたボルトを回すことができるという画期的な発明でした。
それだけでなくソケット自体を薄くすることができるため、よりタイトな場所のボルトを回すことができるなど、競合他社の一歩先を行きました。このシステムがアメリカ航空宇宙局の基準に合格したことで、広く世界中で認められることとなります。
また1990年代にはスパナ部の形状を工夫することで、それまで不可能だったスパナでの本締めが行える「フランクドライブ・プラス」システムを開発します。こうした技術革新を絶えず行っていることが、スナップオンを工具業界のリーダーにしているといえます。
スナップオンがプロの信頼を得た理由のひとつが「永久保証」のシステムです。これは「製造上の瑕疵によると認められる不具合があった場合は、無期限で保証します」という独自の保証システムで、長くユーザーに知られてきました。
ただこの永久保証が、一部では「一度買ったら何度でも新品に交換してもらえる」と誤って認識されていたようです。こうしたこともあってか、現在のスナップオンの製品保証規定には「無期限に」といった記載はなく、「各製品の保証規定に定める期間中」という表現になっています。ドリルビットのような消耗品も「瑕疵が購入時点で発見された場合」との記載になりました。
一部で拡大解釈されてしまった「永久保証」で混乱してしまった現場への対策として、改められたといえます。しかし規定の文言が変わっても、スナップオンがきめ細やかなサポートを行う姿勢は変わっていません。
商品の圧倒的な品ぞろえも、スナップオンの強みです。
例えば3/8インチ角の小判型ラチェットハンドルを見ても、まず磨きタイプと樹脂グリップの2タイプがあります。どちらも80ギアで、ギアと噛み合うツメが7枚という高品質のものです。それぞれ柄の長短、首振りの有無などで7タイプを準備しています。これに丸形、クイックリリース、ロープリファイルなどを加えると、3/8インチタイプのラチェットハンドルだけでも30種類を超えます。
ここまでラインナップが揃っているメーカーはなかなかありません。スナップオンの象徴であるラチェットだけでなく、他にも多彩な工具がさまざまなラインナップで揃えられているところも、ユーザーがスナップオンを選ぶ基準です。
ハンドツールの世界で、一番の花形であるラチェットハンドル。そのヘッド部には、ギアとクロウを噛み合わせて可動するラチェット機構が収められています。しかしこのヘッドにはゴミが入り込んでしまうことが多く、そうすると異物によって耐久性が落ちて、トラブルを生む原因となっていました。
そこでスナップオンではヘッド部をシールドすることで、不良の原因となるゴミや異物の侵入を完全にシャットアウトしました。シールドによって工具寿命を飛躍的に伸ばすことに成功します。スナップオンの密閉されたラチェットヘッドは、長く小判型モデルの大きな特徴となりました。
スナップオンのバンセリングは、年間40回ほどユーザーの巡回を行います。1〜2週間に1回の割合で訪問する頻度です。
そして訪問時は新商品を持っていくようにしており、実際に年間200個ほどの新商品をユーザーに紹介するといいます。ここまで多くの新商品を世に送り出し、顧客に紹介することで販売数を伸ばしています。
さらに新商品を使ったユーザーの感想をすぐに聞くことができ、次の商品開発に素早く取り入れることが可能です。このようにして、ユーザーとは家族に限りなく近い関係を築け、よりよい商品を生み出すという好循環が生まれています。
上記のとおり、スナップオンでは世界初の移動式販売方式であるバンセリングを1940年代から行っています。ここではバンセリングについて、さらに詳しく見ていきましょう。
スナップオンの工具はホームセンターには売っていません。そのために一般的なDIYユーザーにはあまりなじみがなく、プロが使う一級品というイメージがあるかもしれません。
スナップオンの工具は、次の店舗で販売されています。
正規加盟店とはスナップオンのフランチャイズオーナーとなって、スナップオン・バンでユーザーを巡回する方々をいいます。
加盟店はホームページ等でも公表されていません。そのため最寄りの加盟店がどこにあるか知りたい場合には、スナップオンのお問い合わせフォームから問い合わせる必要があります。
スナップオンの販売の多くは、全国の正規加盟店が行っています。ここが他の工具メーカーと大きく異なる点で、製造だけでなく販売まで行うことで直接ユーザーとやりとりをし、様々な意見を直接ユーザーから吸い上げることが出来ます。
正社員ではないものの、フランチャイズオーナーとして高い意識でユーザーからのリアルな情報を収集する。加盟店制度で販売を行うことでよりユーザーと近くなり、有益な情報を得られています。
加盟店に登録したオーナーは、スナップオン・バンに15,000種類にも及ぶ工具を積み込み、ユーザーを巡回します。各ユーザーを年間約40回巡回し、工具の販売や代金の回収を行います。スナップオン・バンでの販売地区はスナップオン本部から割り当てられており、訪問先は約200軒前後です。
現在はアメリカだけでも3700台のバンが巡回しています。また同様のバンセリングはドイツ、イギリス、オーストラリア、南アフリカ、日本でも巡回しており、それらのオーナーからあがってくる情報は圧倒的な量になります。こうした情報網が、スナップオンの機能的な工具の開発につながっています。
スナップオンのなかでも特にユーザーからの人気が高い工具と、そのおすすめ品をご紹介します。ただしAmazonで購入される場合には、並行輸入品のため国内正規代理店での保証が付きませんのでご了承ください。
差し替えるだけで、たくさんの種類のボルトやナットを回すことが出来るソケット。ソケットセットを開発したスナップオンならではの商品が揃っています。
おすすめするのは、フランクドライブ機構を採用した、使い勝手のよいソケットです。光沢が美しく、セットでそろえて間違いなしの逸品です。
ソケットツールのなかで主役を務めるラチェットハンドル。各メーカーがさまざまな趣向を凝らした商品を開発しています。そんななかでこちらのスナップオンのラチェットレンチは、全長が244mmと飛び抜けて大きくなっています。
通常180mmのものが多いため、ずいぶん大きく感じますが、その分小さな力で作業が行なえます。またグリップも大きいため、手のひら全部でグリップを握ることができ、安心感を持って作業ができます。
持っておくと何かと便利なスパナとメガネレンチのコンビネーションレンチ。工具箱に備えておきたいセットがおすすめです。オープンエンド部に刻み目をつけることで、トルクをアップしたフランクドライブプラス機構を取り入れています。角が丸まったボルトやナットにも使うことができます。
ラチェット機構を取り入れ、ネジ締め付けを素早く行えるラチェットドライバー。以前はラチェット機構が頼りなく剛性感もなかったため、あくまで「家庭用のドライバー」という印象でした。
ところがスナップオンがプロ向きのラチェットドライバーを販売したことで、その印象は大きく変わります。当初は疑心暗鬼だったプロの整備士にも、徐々にその便利さ・確かさが浸透し、いまでは憧れのツールのひとつとなっています。
今回は世界ナンバーワンの工具メーカーであるスナップオンをご紹介しました。独自の機構をもった工具を開発するだけでなく、バンセリングやタイムペイメントといった独自の経営方法を生み出す。このように何事にも挑戦し続ける姿勢が、世界中に受け入れられた要因なのかもしれませんね。
まだスナップオンの工具を持っていない方は、ぜひ今回ご紹介したおすすめ工具からスタートしてみてください。決して安くはない工具ですが、一度使ってみればその品質の高さに驚くはずです。国産メーカーとはまた違った、重厚なデザインをあなたもぜひ手にとってみてください。