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【手形の裏書譲渡について】元銀行員が徹底解説!

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手形の裏書譲渡について詳しく知っていれば色々な活用方法があります。うまく手形を使いこなすことで資金調達にも役立つし何よりコストも節約できます。

一方手形は有価証券なので、裏書を含む記載内容には十分な注意を払って手形を受取りするほか、取引相手に支払いで渡すときにも手形に余計なことを書かないなど、基本的なことをしっかり押さえておく必要があります。

そこでこの記事では、手形の裏書譲渡について、長年手形実務に携わってきた元銀行員の立場から徹底解説します。

手形の裏書譲渡とは?

読者にはまず手形の裏書譲渡というものがどのようなものか、全国銀行協会の公式サイトから手形現物、及び裏書譲渡の例を見てもらうことにします。以下がそのサンプルです。

手形・小切手の利用方法②手形・小切手の譲渡

サンプルでも見ていただいたように、手形は一般的に裏書譲渡という方法で流通させることができます。また利用者の間ではこの方法を廻し手形とも呼んでいます。

手形の裏面には署名欄が上段から下段に向けて階段状になっており、手形を決済で受取りした会社や個人が、署名と捺印をして(裏書)、次々に支払いで取引相手に対して渡すことができるようになっています。(譲渡)

なおこの裏書譲渡ができる期間というのは手形表面に振出人が記載した支払期日までです。その後、手形の最終所持人が自分の取引銀行に取立て依頼で持ち込み、手形交換所経由で決済が行われ、所持人の取引口座に取立て代わり金が入金された時点で当該手形の取引が全て終了します。

これが一連の手形の裏書譲渡に係る取引の流れです。

裏書きすれば裏書人は振出人が支払不能のとき、返済責任を負う

受取手形に裏書きすることのメリットは、手形の支払期日までは何度でも裏書きして渡すだけで取引相手に支払い手段として使えることです。ただ裏書きして渡すだけで支払いに使えるのでコストもかからないし、必要資金を早めに調達するため割引で手形を銀行に持ち込んで割引料を払う必要もありません。

このように一見、利用メリットの多い手形の裏書きですが、じつはデメリットもあります。それは裏書人が手形に裏書きすれば、もし振出人が支払い不能になって決済できなくなった場合、前の裏書人に対してその支払い責任を負うということです。

手形は振出日から支払期日までその支払期間が、短いもので1ヶ月、長いものでは6ヶ月以上あり、平均して3ヶ月ぐらいが標準です。これぐらい長いと、手形が流通しているその間に振出先の業況に変化があって、いきなり倒産とか廃業してしまうこともあります。

そうなると振出人が発行した手形の支払期日が来ても決済できないので(いわゆる不渡り)、手形の最終所有者は手形の裏書人に対して資金の返還請求することになります。(手形の買い戻し)

しかし手形の裏書人の中には、手形の買い戻しを要求されてもすでに資金を使い切って買取り資金をすぐに用意できない事業者もいることから、場合によってそれを契機に連鎖倒産することもあるのです。

このように受取手形の裏書きには、まさかの場合、その手形を買取りする責任、いわゆる担保責任が伴っていることから、受取手形を裏書譲渡で利用するときにはその責任をしっかりと自覚しておかねばなりません。

譲渡目的で行う裏書きでは、必要事項以外、余計なことを書いてはいけない

譲渡目的の手形の裏書きで守らなければならない大切なルールに「日付、署名、捺印以外、裏書きに余計なことを書いてはいけない」というのがあります。

事例を上げればたとえば、「この裏書人には約束手形の券面金額のうち、○円のみ支払う」などという一部支払いを目的とした文言を手形の余白に追加で書くことです。

手形は一枚ずつ、その額面金額で市場において独立して流通しているのであり、このような手形金額の一部譲渡のような文言を記載することはその手形の効力を無効にしてしまいます。手形に裏書きする方は絶対やってはいけません。

手形の表面には印刷できちんと「表記金額を下記被裏書人またはその指図人にお支払い下さい」と記載されており、手形の関係者が流通途中で勝手に金額を変更させることはできません。

手形を利用する方はこの点もしっかり理解しておいて下さい。

裏書欄の被裏書人は誰が署名する?

全国銀行協会の手形のひな形を見て頂いたら分かるように、手形の裏書欄は裏書人、被裏書人、裏書人、被裏書人、という順番にたくさん裏書譲渡が書けるよう段組みされています。

ここで大事な点は裏書人欄と被裏書人欄を記載するときにはそれがワンセットとなっているということです。

すなわち、「裏書欄の被裏書人は誰が署名する?」という問いに対しては、答えは「裏書人が署名捺印すると同時に、支払いで手形を渡す相手を被裏書人に指名して記載する」ということになります。この理由は、もし被裏書人の名前を間違った場合、その訂正に書いた裏書人の印鑑が必要になるからです。

では被裏書人の名前が書かれていない手形を受け取った場合、受取人はどう対処したらいいのでしょうか?また被裏書人なしの手形の有効性は?

じつは全く問題ありません。手形に被裏書人の名前が書かれていなくても裏書人だけの手形は問題なく流通しているし、有効性にも特に問題ないのです。

実際このような手形は市場でいくらでも流通しているので、元銀行員だった私も被裏書人が一部書かれていない手形を取立てで取引先から受け取ったことはいくらでもあります。

ただしそのままその手形を銀行に持ち帰っても内勤者から「手形要件不備」で返戻されるだけなので、得意先係として手形に被裏書人を補記して完全な手形にしてから処理に回していました。(銀行員としては手形を顧客に返却してもいいのですが、被裏書人は印鑑も必要ないし、重要度の低い記載項目だったのでそのような処理で済ましていました。)

もちろん手形の取立てを金融機関に依頼する前に、各段階の裏書人が書かれていない被裏書人の名前を補記することには何の問題もありません。

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手形の流通中に裏書欄が一杯になった場合の対応と注意点

手形の流通中に裏書欄が一杯になってしまったとき、手形の所持人はどうしたらいいのでしょうか?

手形の流通期間は長いもので6ヶ月以上のものもあり、支払い等で裏書譲渡が繰り返されていると、このように最初の手形の裏面だけでは裏書きが書き切れなくなってくることも起こります。

そのようなとき、手形の所持人は自分用に使っている振出前の未記入の白地手形の裏面を補助用紙として元手形に貼り付けて引き続き裏書きして利用して下さい。ただし貼り付けたものは流通中に継ぎ目が剥がれやすいので、しっかりのり付けしておくことを忘れないように。

貼り付け後の処理としては、継ぎ目に手形所持人の印鑑を押印し、自社の署名と捺印で裏書きするととともに、次の相手を被裏書人欄に書いて譲渡するようお願いします。

なお、裏書途中に自分の署名を間違えてしまい、その裏書欄を横線、または斜線で消して次の段の裏書欄に署名捺印する場合、その抹消した欄の取扱いはどうするのかというと、それは最初から内容が記載されていないものとして取り扱われるようなルールとなっています。

もちろん消した横線等の上に裏書人の印鑑による訂正印があってもなくても取扱いは同じなのですが、できれば署名を抹消した方が訂正印を押していたほうが手形を受け取る側には心理的に受理しやすいかなと考えています。

受け取っていた手形を裏書譲渡せずそのまま決済で別の取引先に渡せるか?

取引で受け取った手形を裏書譲渡せず、そのまま自社の決済で別の取引先に渡せるかどうか、という質問を受けることがあります。結論から先にいえば可能です。

たとえば前章で解説したように、自社が受け取った手形がすでに裏書欄が譲渡の繰り返しで一杯になっており、自分が裏書して次の取引先に渡したくても書けないようなケースです。

もちろん補助用紙を使えば裏書譲渡は続けることはできますが、事業者の中にはそれを面倒くさいと考える方もいるので、そのような場合は受け取った手形に自社の名前を署名捺印せず、そのまま取引相手に支払い手段として渡すことはできます。ただし相手が受け取ってくれるという条件付きです。

譲渡手形として署名捺印して交付することを求めてくる相手に対しては、多少面倒くさくてもちゃんと補助用紙に自社名を裏書して渡す必要があります。一般的にその時点で手形を所有している方を手形の真の所有者と見なしますので、仮に前所有者の裏書がなくてもこのような取扱いが可能なのです。

割引手形として裏書譲渡する場合のデメリット

事業者は資金調達のため、受取りした手形を取り立てに回さず、銀行や割引業者に持ち込んで手形を買い取ってもらい早めに資金を手にする方法があります。

これを割引といい、業者は手形の額面金額から買取りに必要な手数料を差し引き、残金を依頼者に交付します。その際、手形の所持人は手形に裏書譲渡して割引業者に現物を手渡すのでこれも一種の譲渡手形といえるでしょう。

では割引手形として業者に裏書譲渡する場合のデメリットとは何でしょうか?それは手形決済時、振出人の倒産等で手形が不渡りになり、銀行や割引業者から手形の買い戻しを要求されたときに起こるデメリットです。

割引でなく、一般流通において譲渡手形が不渡りになったとき、各被裏書人が裏書人に対して負う返済責務はその手形の額面です。

一方、割引手形で不渡りが起こった場合、割引を受けた銀行や割引業者に対する裏書人の返済債務は同じく手形額面ですが、一般の譲渡手形と比べると中身が違います。割引時に手形の所持人が受け取っていた金額は割引料を除いた残額であり、手形額面全額ではありません。

ところが手形が不渡りになりいざ返済が必要になると、裏書人が返す必要がある金額は手形額面になるため、割引料が高かったとき、その返済金額は裏書人には予想以上に負担になります。

もし割引を受けたのが民間の割引業者だと、その利率は最大で手形額面の20%くらいになるときがあります。事業者の資金繰りが厳しかったとき、この割引料20%を含んだ返済額は裏書人にはかなりの負担になりますよね。

不渡り発生というのは、あくまで可能性の話ですが、割引に係る裏書譲渡にはこのようなデメリットがあることを忘れてはなりません。つまり手形割引で割引業者等に対し裏書譲渡するのは通常の裏書譲渡よりデメリットが多いということです。

手形の裏書譲渡と仕訳

最後に事業者に関心が高いと思われる手形の裏書譲渡と仕訳についても触れておきます。譲渡手形の仕訳では一般的に以下の2つのケースが考えられます。

事例1:持っていた受取手形10万円を取引他社に裏書譲渡して渡した場合(支払手形として活用)

事例2:他社から裏書譲渡された手形20万円を受け取った場合(支払いの対価として手形を受取り)

事例1の場合、自社の仕訳は以下のようになります。
(借方)買掛金10万円 (貸方)受取手形10万円
それぞれ、買掛金という負債が減少し、同時に受取手形という資産が減少するという意味です。

また事例2の場合、自社の仕訳は以下の通りです。
(借方)受取手形20万円 (貸方)売掛金20万円
こちらはそれぞれ、受取手形という資産が増加し、同時に売掛金という資産が減少するという意味です。

以上、簡単ですが手形の裏書譲渡と仕訳のやり方についてでした。

まとめ

手形の裏書譲渡について、その活用方法や利用上の注意点、メリットやデメリットなど、様々な角度からできるだけ詳しく解説してきました。

手形のコスト削減や管理の縮小を目的に、手形に変わる決済方法として大企業中心に推し進めている「期日現金」や「振込」などの利用で手形の利用は減っており、その余波で中小企業も譲渡手形を使う機会は減っていることと思われます。

しかしまだまだ支払い手段として手形が流通している以上、裏書譲渡の知識を持たず手形を使う事業者ほど危ない存在はありません。

この記事も参考にぜひ賢明な手形ユーザーをめざしてほしいと考えています。

 

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※記事の掲載内容は執筆当時のものです。