チェーンソーにとって、重要なメンテナンスのひとつである「目立て」。安全に末永く使用するために、欠かせない作業です。
しかし正しい目立ての方法を理解している方は、そう多くはないかと思います。
そこで今回は、チェーンソーの正しい目立てマニュアルや道具、おすすめ目立て機などをご紹介していきます。チェーンソー初心者で、目立てについて知りたい方はぜひご覧ください。
目次
まずはチェーンソーの目立ての準備として、道具やヤスリの選び方、目立の角度についてご説明します。
目立てとは、ヤスリを使ってソーチェーンの刃を研ぐ作業のことです。
ソーチェーンの刃は、切削を繰り返すとだんだん丸くなり、切れ味が落ちます。また石などに当たると、すぐに切れなくなることも。こういった場合に目立てを行い、ソーチェーンの刃を研ぐことで、再び切れ味が良くなります。
正しく目立てされたソーチェーンでは、力をかけずにカンタンに木材を切ることができ、また切断面もキレイに仕上がります。作業にはコツが必要ですが、一度覚えれば長く使える技術です。チェーンソーをよく使う場合には、正しい目立ての方法を覚えましょう。
ソーチェーンの刃を確認すると、次のような構造をしています(この部品は「カッター」と呼ばれます)。
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そして、デプスゲージと上刃の先端との差は、「デプス量」と呼ばれます。
目立て作業では、上刃と横刃を適切な角度で研ぎ、デプスゲージの高さ(デプス量)を調整していきます。
チェーンソーの目立てに、最低限必要な道具はこちらの4点です。
上記3のゲージでデプスゲージの高さを確認し、高い場合は平ヤスリで削って調整します。目視ではわかりませんので、必ず調整ゲージを使って確認しましょう。
チェーンソーの目立てには、専用の棒状の丸ヤスリを使いますが、その太さが重要です。太さが間違っていると、絶対にうまく研げませんので注意しましょう。
自分のソーチェーンに合う丸ヤスリの直径は、こちらの表を参考に確認して下さい。
また、チェーンソーの取扱説明書やパンフレットには、推奨するヤスリの直径が記載されています。必ず確認して、最適なヤスリを使用しましょう。
目立ての重要なポイントとなるのが、目立の角度です。チェーンの種類によって合わせる角度が変わってきますので、それぞれ確認していきましょう。
上刃に対してヤスリをかける角度で、「トッププレートアングル」とも呼ばれます。全ての刃を、同じ角度で磨くことが大切です。
横刃の立ち上がり角度で、「サイドプレートアングル」とも呼ばれます。この角度が急過ぎるとひっかかりやすく、緩すぎると削り幅が小さく、切り進みにくくなります。
ヤスリがけを行う角度です。ガイドバーに対して90度の場合が多いですが、丸いマイクロチゼル型では持つ手元を10度下げてヤスリがけを行います。
代表的なソーチェーンの目立て角は次のとおりです。ただし正確な角度については、お手持ちのチェーンソーの取扱説明書で確認して下さい(下表はスライド可能です)。
チェーンの種類 | 上刃目立て角 | 横刃目立て角 | ヤスリの角度 |
---|---|---|---|
チゼル型 | 25度 | 60度 | 90度 |
セミチゼル型 | 30度 | 85度 | 90度 |
マイクロチゼル型 | 30度 | 85度 | 10度 |
ここでは、チェーンソーの正しい目立てを行う方法についてご説明します。
ソーチェーンには鋭い刃がついています。目立てを行うときは、必ずグローブや軍手などを着用しましょう。
ケガを防止する他に、手袋をしていれば手でしっかりとチェーンを固定できます。安心して確実な目立てを行うためにも、グローブや軍手は必須です。
ヤスリをかける手がふらついていると、しっかり目立ができません。下写真のように、ヤスリと腕が一直線になるように持つのが正しい持ち方となります。もしくはチェーンソー本体をしっかり固定し、ヤスリの先端をもう片方の手で支えるように持つのも効果的です。
ヤスリを片手で握るように持ってしまうと、ヤスリを押し出しにくく、正確な目立てができません。正しい持ち方で、正確な目立てを目指しましょう。
ヤスリは、カッターの内側から外側に向けて、押すようにかけていきます。手前に引くときには、ヤスリを刃に当てないよう、カッターから離します。刃の外側からかけたり、往復でかけることは絶対にしてはいけません。
力のかけ具合は、横方向に8、下方向に2の割合でかけていきます。
チェーンソーの正しい目立の方法を、作業順にご紹介します。
まずはソーチェーンをよく掃除します。木くずなどが付いたままだと、しっかり研磨されません。
またこのとき、チェーンに損傷がないか確認も行います。亀裂や大きな欠けがあった場合は、目立てではカバーできませんのですぐにソーチェーンを交換しましょう。損傷があるチェーンを使用すると重大な事故につながる恐れがありますので、ここでは念入りな確認が必要です。
目立てを行う際に、チェーンがぐらついていると正確な研磨が行なえません。そこでチェーンソー本体を安定した場所に置き、専用のクランプなどを使用してぐらつかないようにします。
次にチェーンを通常より強く貼りましょう。こうすることで、カッターが傾かず正しい角度で研磨を行うことが可能です。
まだチェーンがぐらつくようであれば、チェーンとガイドバーの間にドライバーなどを差し込んで安定させましょう。
目立て作業の基本は、「すべてのカッターを同じ回数だけ研ぐ」です。そこで、まずは目立てを開始するカッターにペンで印をつけておきましょう。こうして1周したことがわかるようにします。
次に、前述したとおりチェーンごとに推奨する研削の角度があるため、取扱説明書で確認して下さい。例えばリョービのBCS−1800L1では、角度を下図のように指定しています。
そして、丸ヤスリで同じ向きのカッターから研磨していきます。
このとき、丸ヤスリの直径の1/5を上部に出して、刃に密着させるように動かして研磨して下さい。これは上部を出した状態で、最適な角度で刃が研げるようヤスリの直径が設定されているためです。そのため、ヤスリの位置は上すぎても、下すぎてもいけません。
くり返しますが同じ角度で、同じ回数だけ研ぎましょう。ペンで印をつけたカッターまで来たら、今度は反対向きのカッターを逆側から研磨していきます。
逆向きのカッターも、もちろん同じ回数だけ研磨しましょう。このように同じ回数だけ磨くことで、カッターは同じ長さを保つことができます。
丸ヤスリでの上刃と横刃の研磨が終了したら、デプスゲージの調整を行います。チェーンに合ったデプスゲージ調整ゲージをデプスゲージにかぶせ、調整ゲージから出ている部分を平ヤスリで削りましょう。
デプスゲージを削った場合は、必ずデプスゲージの前側をもとのように丸みをつけて削ります。この作業をすべてのカッターで行って下さい。
デプスゲージの調整まで終わったら、ソーチェーンをチェーンソーオイルの中に浸してヤスリ粉を洗い落とします。ヤスリ粉がつまったままで使用すると、ソーチェーンやガイドバーが摩耗しやすくなりますので注意して下さい。
これで目立て作業は終了です。
目立てを行った直後でもチェーンソーの切れ味が悪い場合は、正確な目立てが行われなかった可能性が高いです。チェーンの形状を見て、目立て不良を確認しましょう。
ヤスリを下に押し付けすぎたり、手元を上げすぎた状態での研磨や、ヤスリの直径が不適切な場合に表れます。こうなるとキックバックの危険性が高まり、チェーンソーへの負担が大きいため故障の原因にもなります。
目立て機やガイドなどの補助工具を使用し適正なヤスリがけを行う、適正な直径のヤスリを使用するなどの対処を行いましょう。
使用したヤスリが太すぎたり、ヤスリをかける位置が高すぎることで発生します。刃がこのようになるとカッターが滑って木材に喰い込まないため、作業効率が大きく下がるでしょう。
この場合もやはり補助工具を使用して適正なヤスリがけを行うこと、適正な直径のヤスリを使用して再度研磨することで対応可能です。
刃によって、ヤスリがけを行う回数が違った場合に発生。刃がこういった状態になると、切れ曲がったり、切れ味が低くなってしまいます。
対策としては、最も短いカッターを見つけて、すべてのカッターが同じ長さになるまでヤスリをかけていきます。
ここでは、チェーンソーの目立てについて頻度などの情報をご紹介します。
目立てを行う頻度やタイミングは、メーカーでも明記はしておらず、「切れ味が悪くなったら行う」とされています。そして実際にチェーンソーを使用しているプロの方たちには、「燃料を補給するたびに、目立てを行う」や「燃料を3回補給したら行う」という方が多いようです。
こまめに目立てを行えば、一度の作業にかける時間は短くて済みます。また常に切れ味が良い状態で作業が行えるため、作業自体が短時間で済むのも利点です。
できるだけこまめに目立てを行い、切れ味が良い状態で安全に作業が行えるようにしましょう。
金物屋などの業者に目立てを依頼したときの料金は、ソーチェーン1本で800円〜2,000円ほどです。刃の数が多いソーチェーンや特殊、竹挽用は高額になります。
1回あたりの金額は高額ではありませんが、ひんぱんに依頼すれば費用はかさむのがデメリットです。チェーンソーを使う機会が多いならば、自分で目立てのやり方を覚えるか、後述する目立て機などを使って行えるようにしておきましょう。
ヤスリで目立てを行っている際にバリが出たときは、刃先まで研げている証拠です。逆にバリが出ていない場合は、しっかり研げていません。バリが出るようにしっかり研ぐことが重要です。
チェーンソーの目立てを行ってくれるホームセンターもあります。例えばこちらのホームセンターでは880円〜2,500円、1週間〜10日ほどで目立てをしてくれます。
・ホームセンター アント:チェンソーの刃の目立てを承ります【有料】
・DCM ダイキ:修理センター
最寄りのホームセンターで目立てを行っていないか、ウェブサイトなどで確認してみましょう。
チェーンソーの目立てには、あると便利な道具が数多く販売されています。ここでは、ガイドやドリルビットなど、目立てに便利な道具をまとめました。
初心者はヤスリの角度を一定に保つのが難しく、そうすると正確な研磨が行えません。このようなときは、角度を示してくれるガイドを使いましょう。
ガイドをソーチェーンに乗せれば、正確な角度がわかりますので、正確な研磨で目立てが行えます。
刃の研磨を高速で行ってくれるのが、ドリルビットです。インパクトドリルや電気ドリル、充電ドリルに取り付け、回転させることで、カンタンに刃を研ぐことができます。
特に、チェーンソーを使う現場に持っていき、簡易的な目立てを行うことに向いているでしょう。そして精密な目立てを行う場合には、角度などを正確に測る工具で別途行うのがおすすめです。
目立て専用クランプは、ガイドバーを挟んでしっかりと固定してくれますので、安定して目立てを行えます。また軽量ですので、チェーンソーを使う現場に持参して目立てすることも可能です。
チェーンソーの目立てを行うのに、目立て台があると便利です。ただし、特に「目立て台」としては販売されておらず、皆さん自作しています。
目立てでは、ソーチェーンをしっかり固定することが重要。しっかり固定することで、確実な研磨ができます。目立て専用クランプやバイス、万力でガイドバーを固定し、作業しやすい台で目立てを行いましょう。
最後に、チェーンソーの目立てがカンタンに行える、目立て機・グラインダーのおすすめ2モデルをご紹介します。
おすすめのチェーンソー目立て機1点目は、ニシガキ工業のグラインダー『カンタン目立てチェンソー N-817』。
目立て機の幅広ガイドを上刃の角度に合わせてソーチェーンに載せ、あとは目立て機のスイッチを入れて刃を研ぐだけです。カンタン、安全に、最適な角度に目立てを行えます。
おすすめするチェーンソー目立機、2点目はSK11の『チェーンソー目立機 丸やすり4.0mm付』です。
始めに上刃目立て角度と垂直目立て角度を設定して、目立機をガイドバーに取付けます。ヤスリの高さと、刃を削る量を調整すれば、あとはヤスリを一方向に押して、刃を研いでいくだけです。誰でもカンタンに、すばやく正確な目立てを行え、切れ味が復活します。
今回は、チェーンソーの正しい目立て方法や道具、おすすめ目立て機などをご紹介しました。目立ては角度や手順など覚えることが多く難しいですが、便利な補助工具がたくさん販売されていましたね。
ぜひ今回の記事で目立ての正しい方法を理解して、チェーンソーでの安全な作業を行って頂ければと思います。